87 バレーボール②
待ちに待った日曜日。
城谷先生と久しぶりに会うことのできる日。
先生が所属しているバレーボールチームは市の体育館を借りて練習を行っている。
最寄りの駅で先生と待ち合わせて体育館に向かうことになった。
10時半。胸を鳴らしながら改札で城谷先生を待つ。
「おーい。宮澤さん。」
白い歯を見せながら城谷先生がこちらに向かってきた。
「久しぶりだな。待った?久しぶりに会うのにいきなりバレーボールしに行くっていうのもあれだけど。また会えてうれしいよ。元気だったか。」
城谷先生は続けてどんどん話してきた。いつもの城谷先生だった。
「はい。もう最近は部活が忙しくて他の事は何にもやってませんけど。元気にやってます。」
私たちは体育館に向かって歩き出す。
「他の事って、英語はやってないのかよ。」
「あ、それはちゃんとやってますよ。でも本当はあと二年間城谷先生がばっちり英語教えてくれるはずだったんですけどね。」
「ほんと、それは手紙にも書いたけど悪かったよ。でも学校辞めること生徒に漏らすのはまずいだろ。だから言えなかったんだよ。」
「でも言ってくれればよかったのに。期待ばっかりして、城谷先生がやめるって聞いたとき本当にショックだったんですよ。それに美輝が教えてくれるまで、城谷先生がどうしてるかなんて全然知らなかったし。」
「ああ。ほんとに悪かったよ。ごめんな。いつでも英語教えるから、なんでも質問しろよ。それにしてもこうして学校辞めて宮澤さんに会えるなんてちょっと感慨深いな。」
「本当ですか。じゃあ今度質問しますね♪ところでなんで学校やめちゃたんですか。」
「おう、どんとこい。ああ、それはまた今度な。」
先生は言葉を濁した。
何か言えない理由があるんだと思い、その時は追及しなかった。それが後に私たちに大きな影響を与えるとも知らずに。
「ところで先生、あとどれくらいですか。」
「あと五分だよ。ほら、体育館名表示されてるだろ。」
こんな風に城谷先生と歩くなんて、一年生のときには考えてもみなかった。
いつもありがとうございます
はじめまして。梓葵です。
いつもブログを閲覧くださりありがとうございます。
今さらですが自己紹介をさせてください。
私は英語の教師をしております。いつかは母校で教鞭をとりたいと思っていますが、現在は共学で教えています。
十年以上も前のことになりますが、偶然にも帰省した際に当時の日記を見つけ幼い頃の恋を思い出しました。それをもとにブログを書いています。
当時私は高校二年生、城谷先生は二十九歳でした。先生とは十三歳差でだいたい一回りの歳の差です。(はじめの出会いは私が高一、城谷先生が二十八歳の時でした。)
先生は学期途中で転任なさったので、学校に一緒にいられた期間は八ヶ月ほどでした。
関わりは英語の授業と委員会のみでした。英語が大の苦手な私でしたが、城谷先生との出会いのおかげで英語の教師になったのです。
当時から考えると私が英語の教師になるなんて笑ってしまうと言う友人も多くいます。城谷先生に教えてもらうまではそれほど壊滅的な成績でした。
縁というのは不思議なものだなとつくづく思います。
今さらの自己紹介ですが、多くの方がブログを見てくださっているため、お知らせしたいなと思い、少しだけ現在の様子をお伝えしました。
いつも本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。
86 《今》②
もう十年以上も前のこと。
城谷先生のおかげで英文科に進み、今も英文学に携わる仕事をする。そしてこれからも。
続ければ、城谷先生にいつか近づける気がするから。
城谷先生との思い出。
そしてもう一つ。バレーボール。城谷先生がくれた名前入りのバレーボール。
城谷先生はとびきりのセンスを持っているわけではない。
それでも一緒にボールを叩いたあの期間を、空間を体が覚えている。
85 バレーボール①
ついに部活が休みの日ができた。
城谷先生にメールする。
『ついに休みがきまりました。来週の日曜日、城谷先生空いてますか。』
先生の都合が合えばいいなと願いながらメールが届くのを待つ。
すると携帯の電話が鳴った。
「もしもし。宮沢さん。」
城谷先生からの電話。
電話が来ると思わず、心の準備が出来ていない。
「もしもし。城谷先生ですか。」
驚きで声がうわずる。
「そう。元気か。」
「はい。城谷先生も元気ですか。」
「元気ですよ。ってアントニオ猪木かよ。」
思わず笑いあう。
「俺今バレーボールチームに入ってるんだよ。それでその練習が来週の日曜日なんだけど。」
予定が合わなかった。
また会えるのは先延ばし。
「練習ですか、いいなあ。楽しそう。じゃあまた休みが出来たら言います。」
「それなんだけどさ、宮沢さん、もしよければ練習来ないか。」
予想していなかった返答。
「いいんですか。行きたいです。」
「そうか、良かったよ。休みの日までバレーボールしたくないって言われるかと思った。詳細はメールするから。しっかりしごいてやるから楽しみにしとけよな。」
「しごきはやめてください。それじゃあまた日曜日に。」
「おう、じゃあな。」
電話を切った途端嬉しさがこみ上げた。
84 メール②
二通目のメール。
『そこまでして俺と会おうとしなくて大丈夫だから。』
なんと返せばいいのか分からない。私は先生に無理に会おうとしてるのか。
先生は迷惑なのかも。私に会いたくないのかも。
でも私は先生に会いたかった。先生に会いたい。
そう、そうだ。その思いを伝えよう。
メールでは伝わらない。そう思い、子機を手に取る。
「もしもし。」
「先生。宮沢です。いま大丈夫ですか。」
「おう。どうした。」
「私、先生に会いたいです。色々話したいです。英語もやりたいんです。だから…」
なんと言えばいいかわからず口を濁す。
沈黙の時間。嫌な時間。
先生の大きなため息。
ああ、先生は私のことを迷惑だと思っていたんだ。
そう思ってしまった。
しかし先生の答えはそうではなかった。
「そっか。いや、よかったよ。俺も宮沢さんに会いたかったから。無理矢理誘ったから嫌だったかなと思ってメールしたんだ。」
なんだ。そうだったのか。
勝手に想像し、不安になっていただけだった。
「そうだったんですね。先生は会いたくないのかと思いましたよ。良かった……。すっごく楽しみにしています。」
「なんでそうなるんだよ。こっちから誘ったのに。ああ、俺も。楽しみにしているよ。」
「はい。じゃあまた連絡します。」
「おう、待ってるよ。俺もまた連絡するから。」
いつも思いを素直に言えない。でも今日だけは伝えてよかった。そう思う。
83 メール①
メール。文を考えるのに三十分かかった。