Reminiscence -追憶-

愛してはいけない人 愛されてはいけない人

87 バレーボール②

待ちに待った日曜日。 城谷先生と久しぶりに会うことのできる日。 先生が所属しているバレーボールチームは市の体育館を借りて練習を行っている。 最寄りの駅で先生と待ち合わせて体育館に向かうことになった。 10時半。胸を鳴らしながら改札で城谷先生を待…

いつもありがとうございます

はじめまして。梓葵です。 いつもブログを閲覧くださりありがとうございます。 今さらですが自己紹介をさせてください。 私は英語の教師をしております。いつかは母校で教鞭をとりたいと思っていますが、現在は共学で教えています。 十年以上も前のことにな…

86 《今》②

もう十年以上も前のこと。 城谷先生のおかげで英文科に進み、今も英文学に携わる仕事をする。そしてこれからも。 続ければ、城谷先生にいつか近づける気がするから。 城谷先生との思い出。 そしてもう一つ。バレーボール。城谷先生がくれた名前入りのバレー…

85 バレーボール①

ついに部活が休みの日ができた。 城谷先生にメールする。 『ついに休みがきまりました。来週の日曜日、城谷先生空いてますか。』 先生の都合が合えばいいなと願いながらメールが届くのを待つ。 すると携帯の電話が鳴った。 「もしもし。宮沢さん。」 城谷先…

84 メール②

二通目のメール。 『そこまでして俺と会おうとしなくて大丈夫だから。』 なんと返せばいいのか分からない。私は先生に無理に会おうとしてるのか。 先生は迷惑なのかも。私に会いたくないのかも。 でも私は先生に会いたかった。先生に会いたい。 そう、そうだ…

83 メール①

メール。文を考えるのに三十分かかった。 絵文字を入れようか入れまいか。 何を書こうか。 先生からの返事は優しい。文字だけだがあたたかい。 くだらないことをメールする。 学校であったこと、部活のこと。 部活の日程がわからない。会う日程が決まらない…

82 先生との電話②

近々会おうと言ったもののなかなか互いに予定が合わない。土日は基本的に部活。城谷先生も仕事が多い。日程が決まらない中でも城谷先生は必ず 二週間に一回は電話をくれる。勉強はどうだ、部活はきつくないか。体調は崩していないか。いつも城谷先生は気遣い…

81 先生との電話

城谷先生から連絡先をもらって三ヶ月が過ぎた。 なかなか決心がつかなかった。 なにか理由をつけて電話しよう。そう思っていたところに大学の受験についての話が出始め、その話をしようと思い電話をすることにした。 電話の子機を手に取る。 プルルルルプル…

80 手紙④

手紙を出してから三週間。城谷先生から手紙の返事が来た。 宮沢梓葵様 手紙ありがとう。 元気にしてますか。 宮沢さんに英語を叩き込むと言ったのに、何も言えずに退職してしまって本当に申し訳なかった。 俺は今も英語の教員をしています。そしてバレー部の…

79 手紙③

美輝の言葉を聞いていてもたってもいられなくなった。 その日家に帰って、すぐに城谷先生に手紙を書いた。 城谷先生がいなくなって驚いたこと。英語を頑張っていること。そして感謝の気持ち。

78 手紙②

私も文系コースに進んだことで美輝とはまた同じクラスになった。 「そうそう、この前城谷先生に会ったんだよ。部活の試合に来てさ。」 「えっそうなの。元気だった?」 城谷先生に会えたなんて羨ましい。 「それで梓葵のこと気にしてたよ。頑張ってるかって…

77 手紙①

城谷先生がいなくなってからも英語は続けた。 恥ずかしくないように。 高校二年生。 また桜の季節。去年は前髪を切り過ぎたんだった。 新任の先生紹介。 もうどこにも城谷先生の姿はない。 なんでいなくなってしまったんだろう。どうして。 それを繰り返して…

76 突然の別れ②

優しかった城谷先生がいなくなるなんて想像もつかなかった。 英語を教えてくれるって言ったのに。 やっと英語が好きになったのに。好きになれたのに。 泣いている子もいた。 私は不思議と涙は出なかった。 城谷先生が辞めたことに関して様々な噂が立った。 …

75 突然の別れ①

十二月終業式。 かなり寒い。 指を擦り合わせる。 集会堂の埃っぽさにはもう慣れた。 校長先生の話は相変わらず長い。 「ええと、最後にお辞めになる先生がいらっしゃいます。」 こんな時期に、誰だろう。少しざわついた。 「英語の城谷柚先生です。」 誰。 …

74 意志

「城谷先生。少しお時間いいですか。」 「おう、どした。」 少しして、私は進路を変えた。本来はもう変更できないと言われている期間。 しかし皆が変更しているのを知り、私も決心した。 英文志望にする。 そう城谷先生に伝えた。 「そうか。嬉しいな。俺が…

73 帰り道②

「お待たせ。じゃあ帰るか。」 城谷先生が声を出しながらこっちに来る。 一緒に帰るの?私たちは三人で並んで駅まで歩いた。 電車に乗る。 美輝と城谷先生は楽しそうに話している。 私は相槌を打つだけ。 私の最寄駅。 「じゃあここなので。美輝バイバイ。さ…

72 帰り道①

球技大会前、一年C組の委員としての最後の仕事。 美輝と私は城谷先生の元へ、近隣の皆さんへの言葉を提出しに行った。 「ほい。確認しとくよ。お前ら今帰り?」 「はい。そうです。」 「ふーん、じゃあこれ持って校門でちょっと待ってて。」 そう言って小さ…

71 球技大会④

球技大会当日。 美輝が城谷先生と写真を撮る。 いつもだったら絶対に言わない。言えないけれど勇気を出して言う。 「先生、一緒に撮りましょう。」 美輝は私が城谷先生のことを好きとは知らない。しかし颯爽と私のカメラをもち写真を撮ってくれた。 嬉しい。…

70 球技大会③

そうだ。 心のどこかで否定していた。先生だし、相手にされないし。 私が好きなのは数学で英語じゃないし。 私の中には赤いインクのようにすでに広がっていた。もう消せない。洗ってもとれない。 虹を描くのは数学だと思っていた。 本当は城谷先生だった。英…

69 球技大会②

それから私は何かと職員室に行くようになった。 ノートを提出しに行ったらパソコンとにらみ合う城谷先生を一瞥する。 部活のことで柏先生に呼ばれた時も城谷先生の席に目を向ける。 城谷先生はいなかった。 「宮沢ってさ、城谷先生のこと好きだよね。」 空気…

68 球技大会①

十月の球技大会に向け、本格的な準備が始まる。 夏休みの部活がない期間に集まり、近隣の方に招待のチラシを委員会の生徒と顧問の先生達で配る。 近隣、先生チームと生徒で毎年球技大会の最後に試合が行われるのだ。 私もチラシを配りに行く予定だった。 そ…

67 暑中見舞い④

「ちょっと全然違うじゃん。」 美輝は文句を言っている。 美輝のはおじさんのキャラクターが散りばめられている葉書。 「梓葵、部活前に城谷先生のとこ問い詰めに行こ。」 私は美輝に葉書を見せたことを少し悪かったかなと思う。 美輝は城谷先生に突っかかっ…

66 暑中見舞い③

夏休み。 夏休みと言っても美輝も私もほとんど学校で部活がある。 夏は普段の練習よりもとびきりきつい。 暑いしのども渇く。なによりも汗が尋常ではない。 体力の消耗は著しい。 毎日会うが、部活の先輩にも顧問の先生にもそして城谷先生にも暑中見舞いを出…

65 暑中見舞い②

手帳を開く。 城谷先生の字。 綺麗な字とは言えない。ごつい字。 その字を見てにやける。指でなぞってみる。 変態みたい。 なにしてるんだろ。 私。

64 暑中見舞い①

美輝は文系コースに進む。 私はまだ悩んでいた。 もうすぐ夏休み。その前に進路を決める。 バレー部でもバスケ部でも先輩と顧問の先生に暑中見舞いを出さなければならない。 住所を聞きに美輝と職員室に行く。 美輝は城谷先生のもとへ、私は柏先生のもとへ。…

63 面談④

もうすぐ進路届けを出さなくてはならない。なぜ頑張れたのか。 私は英語は嫌い。 嫌いだったのかも。でも嫌いではなかったのかも。 きちんとやったことがなかっただけ。 そう。 どうしてきちんとやろうと思ったんだろう。 先生の教え方わかりやすかった。 英…

62 面談③

その日英語の教科書を家で開いた。 久しぶりに。 まっさらな教科書。書き込みも何もない。 授業中に寝ているわけでもないのに。 次の日から私は城谷先生に質問攻撃をし始めた。 分からないことを基礎の基礎から。 どんなに馬鹿げた質問でも城谷先生は答えて…

61 面談②

「なんでか聞きたい?」 「聞きたいって言うか。まあ、そうですね。」 「なんだよ、それ。長くなるけどちゃんと聞けよ。俺さ、宮沢さんと同じ歳の頃理工に行きたかったんだよ。特に理由はなかったんだけど。それと実は英語が大の苦手だったんだ。」 「え、そ…

60 面談①

高校入学して初めての中間試験。 予想通り英語は最悪。 そして担任面談週間。 職員室で柏先生との面談が始まる。 「宮沢、この前の中間テストどうだった?」 「英語が悪いですね。」 「悪いって言うか、終わってるね。」 笑顔でキツイことを言う。 刀の花び…

59 《今》①

痛っ。 首。寝違えた。 宮沢梓葵。25歳。 すごく懐かしい人を思い出した。 城谷先生。 手に握っているのは手紙。城谷先生からもらった手紙。 電話番号が書いてある。 探そう。古い携帯電話。高校生の時に使っていたもの。