Reminiscence -追憶-

愛してはいけない人 愛されてはいけない人

2017-11-01から1日間の記事一覧

42 名前⑨

いい名前。 いい名前とはなんだろう。 私は私の名前が嫌いだ。 嫌いだった? しき。なんだか堅苦しいし‘死期’を連想する。 梓は落葉してしまうし、ハイビスカスも散ってしまう。 それでもたった一回。たった一回言われただけで。 自分が名前につけていた価値…

41 名前⑧

「そうです。ゆず先生だと思ってました。すみません。」 謝るしかない。 完全に悪い印象。高校入学したばかりだというのに。 「いや謝んなくていいよ。わかんないよね。何度女に間違えられたことか。ただ教員紹介はちゃんと聞いとけよな。」 笑っている。怒…

40 名前⑦

そもそも城谷先生は私のことを覚えていたのか。 私の名字が宮沢ということも。 この前美輝が先生に私を紹介したことも。 そして私の名前が梓葵ということも。 「それに城谷先生のこと女だと思ってたもんね。」 美輝はにやりと私を見る。 「そうなのか。じゃ…

39 名前⑥

城谷先生は続ける。 バスケは高校から始めたこと。大学ではサークルでバスケを続けたこと。 そしてバスケの奥深さ。 思わず聞き入った。 「先生暑苦しい。熱血っぽい。」 美輝がツッコミを入れる。 「悪かったな。熱血で。本田も三年後には熱血女子高生にし…

38 名前⑤

「ハサミ貸して。俺こういうの結構得意なんだよ。」 城谷先生も手伝い始める。 無駄に白い歯。 「宮沢さんてさ、何か部活入ってるの?」 急に話しかけられたので、紙を切りすぎた。 「あ。はい。バレー部に。」 「そうなんだ。俺中学の時バレー部だったんだ…

37 名前④

月曜日。四月に入りもう三回目の月曜日が来る。 委員会装飾係の集まり。クラスごとに装飾のデザインテーマを決め、ミニ模型を作る。そしてプレゼン。 こういう作業は苦手。 センスのかけらもない。 一方美輝は得意なよう。 美輝がデザインを考え私がそれを再…

36 名前③

梓葵。 しき。 梓は樹木。まっすぐ伸びる落葉高木。 梓からは弓も作られる。強い樹。 葵。アオイ科にハイビスカスがある。 母はハイビスカスが好きだ。初めて見たときから一目惚れをしたという。 梓弓のように強くしなやかに。 ハイビスカスのようにかわいら…

35 名前②

「Well... 宮沢さん。下の名前なんて読むの。」 ついに指される。呼ばれたくない。 下の名前。 宮沢さんのままでいい。 「先生、しきですよ。」 美輝が答えた。 「しき?ああ、ありがとう。」 何事もなかったかのように授業は進む。 波打つのは私の中でだけ。…