Reminiscence -追憶-

愛してはいけない人 愛されてはいけない人

58 犬⑩

学年旅行最終日。

主任の先生の話が終わり、昼前に栃木を出発した。

 

行きと同じようにサービスエリアで休憩を取り、昼食はそこで自由に食べる。

 

美輝と私は昼食をすぐに食べ終え、売店を見ていた。

そこには城谷先生がいた。

 

美輝は先生を見るや否や昨日の話をし始める。

 

 

「先生、昨日は……。」

 

「おっと、なんだい本田さん。」

 

美輝の声を大きく遮り城谷先生は私たちの眼を力強く見つめ小さな声でこう言う。

 

 

「おい、あんま大きな声で言うなよ。怒られるぞ。もちろん俺も。」

 

 

「えー。別に誰も聞いてませんよ。大きな声で言っても大丈夫ですよ。昨日の夜……」

 

 

「あああ、おいおい。やめろって。」

 

「ふふ。“ただ”ではねえ。」

 

「何が望みだよ。」

 

「ええと、じゃあこのストラップを。」

 

 

美輝が手にしていたのはバスケットボールがついたキーホルダー。

 

 

「仕方ないな。買ってやるよ。内緒だぞ。」

 

 

いいな、そう思った瞬間城谷先生はこちらを向いた。

 

「宮沢さんは、バレーボールでいいの。」

 

「あ、私もバスケットボールにします。」

 

「ん、そうか。ちょっと待ってろ。」

 

 

バスケットボール。なぜそう言ったんだろう。バレーボールの方が良かった?

 

 

そう、良かった。

 

バレー部だもん。バレーボールの方が良かった。

 

 

 

「はい、二人とも大事に使えよな。」

 

 

 

無地の真っ白な袋。

 

 

中を見るとバスケットボールのキーホルダー。

 

 

 

 

ぎゅっと握り、袋にシワが入ってしまった。

 

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