Reminiscence -追憶-

愛してはいけない人 愛されてはいけない人

74 意志

「城谷先生。少しお時間いいですか。」

 

「おう、どした。」

 

 

 

少しして、私は進路を変えた。本来はもう変更できないと言われている期間。

しかし皆が変更しているのを知り、私も決心した。

 

 

英文志望にする。

 

 

そう城谷先生に伝えた。

 

 

 

「そうか。嬉しいな。俺が宮沢さんの英語ばりばりに鍛えてやるよ。この言葉覚えとけよ。Where there's a will There's a way.意志あるところに道はある。

頑張ろうな。」

 

「はい。ばりばりもいいですけど、ぺらぺらにしてほしいですね。」

 

 

城谷先生の白い歯はいつもより輝いているように見えた。

 

 

 

 

やっと城谷先生とも仲良く話せるようになっていた。

73 帰り道②

「お待たせ。じゃあ帰るか。」

 

城谷先生が声を出しながらこっちに来る。

 

一緒に帰るの?私たちは三人で並んで駅まで歩いた。

 

 

 

電車に乗る。

 

美輝と城谷先生は楽しそうに話している。

 

私は相槌を打つだけ。

 

 

 

私の最寄駅。

 

 

「じゃあここなので。美輝バイバイ。さようなら。」

 

 

「バイバイ。また明日ね。」

 

「おう、さようなら。」

 

 

 

城谷先生と美輝が手を振っているのを電車の外から見つめた。

72 帰り道①

球技大会前、一年C組の委員としての最後の仕事。

 

美輝と私は城谷先生の元へ、近隣の皆さんへの言葉を提出しに行った。

 

 

 

 

「ほい。確認しとくよ。お前ら今帰り?」

 

「はい。そうです。」

 

「ふーん、じゃあこれ持って校門でちょっと待ってて。」

 

 

そう言って小さな鞄を渡された。

 

 

校門で何を待つんだろう。

 

 

 

美輝も何も聞かないので、私も何も聞かない。

 

 

 

美輝と遊びの約束をしながら校門で待つ。

71 球技大会④

球技大会当日。

 

 

美輝が城谷先生と写真を撮る。

 

 

いつもだったら絶対に言わない。言えないけれど勇気を出して言う。

 

「先生、一緒に撮りましょう。」

 

美輝は私が城谷先生のことを好きとは知らない。しかし颯爽と私のカメラをもち写真を撮ってくれた。

 

 

 

嬉しい。嬉しかった。

 

 

 

たった一枚だけれどその一枚が私を変える。

70 球技大会③

そうだ。

 

 

 

 

心のどこかで否定していた。先生だし、相手にされないし。

 

私が好きなのは数学で英語じゃないし。

 

 

 

 

私の中には赤いインクのようにすでに広がっていた。もう消せない。洗ってもとれない。

 

 

 

虹を描くのは数学だと思っていた。

 

本当は城谷先生だった。英語だった。

 

 

 

 

私が好きなのは城谷先生だ。

69 球技大会②

それから私は何かと職員室に行くようになった。

 

 

ノートを提出しに行ったらパソコンとにらみ合う城谷先生を一瞥する。

 

 

部活のことで柏先生に呼ばれた時も城谷先生の席に目を向ける。

 

城谷先生はいなかった。

 

 

「宮沢ってさ、城谷先生のこと好きだよね。」

 

 

空気が止まった。

殴られたような感覚。

 

 

柏先生がなんと言ったのか理解できなかった。

 

 

「違います。」

 

 

そういうのが精一杯。

 

 

「いいよ隠さなくて。そんだけ見てたらみんな分かるって。」

 

「見てません。」

 

柏先生は鼻でふっと笑う。

 

「まあいいや。それで宮沢の成績が上がるならね。」

 

 

 

 

蝉の嫌な声。

 

夏休みが終わった。

68 球技大会①

十月の球技大会に向け、本格的な準備が始まる。

 

 

夏休みの部活がない期間に集まり、近隣の方に招待のチラシを委員会の生徒と顧問の先生達で配る。

近隣、先生チームと生徒で毎年球技大会の最後に試合が行われるのだ。

 

 

 

私もチラシを配りに行く予定だった。

それなのに私は風邪をひいてしまい、学校で留守番することになった。

 

その間私は一人で装飾の準備。

 

私も装飾を作るのではなくてチラシを配りに行きたかった。

 

先輩が話していた。近隣の方は優しいからチラシを渡しに行くとお菓子をご馳走してくれる。行きたかったな。

 

 

 

ガラッ。

 

 

 

 

その時城谷先生が入って来た。

 

 

 

「先生!」

 

「おう、風邪大丈夫か。」

 

「大丈夫です。なんで風邪引いたこと知ってるんですか。」

 

「ああ、宮沢さんがいなかったから本田に聞いたんだよ。」

 

「先生、チラシ配りに行かなくて大丈夫なんですか。」

 

「あんだけ人数いれば俺がいなくても大丈夫だろ。」

 

「先生。来てくれてありがとうございます。」

 

「当たり前だろ。こっちの方が面白そうだしな。一緒にやろうぜ。」

 

 

話の途中で城谷先生は急に切り出した。

 

 

「宮沢さんさ、結局進路どうした?」

 

「一応理系で出しました。英語も面白いって思えて来たけど決心できなくて。」

 

「そうか。宮沢さんは英語やって欲しいけどな。」

 

「なんでですか。」

 

「なんか本当は得意そう。」

 

「適当なこと言わないでくださいよ。」

 

「ほんとだよ。理系は俺の担当じゃないし。英文志望なら俺が教えられるのにな。」

 

 

 

一瞬心が揺らいだ。

 

 

それでもまだ数学の方が好きだ。