2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧
英語の授業は日本語ではなく終始英語で行われる。 そのためか、あるいは城谷先生の方針か。 私たちは名前で呼ばれ、予習してきた内容を答える。 私は私の名前が嫌いだ。 梓葵。 誰も読むことができない。 テストでも名前を書くのに時間がかかる。 どうしてみ…
「先生。宮沢さんも同じ装飾係ですよ。1-Cで同じクラス。」 私の方を向いた美輝の顔は太陽の光で眩しい。 「よろしくお願いします。」 「おう、よろしく。」 城谷先生は白い歯を見せ、美輝の方に向き直る。 鐘がなる。いつもより身体に響く。重い音。 授業の…
廊下にも強い光が差し込む。 久しぶりの晴天。 「本田!」 美輝を呼ぶ声。 振り向くと城谷先生が歯を出して笑っている。 白い歯。 光が眩しい。 「城谷先生。どうしたんですか?」 「どうしたもこうしたもこれから本田のクラスの授業ですよ。予習はバッチリ…
委員会。 昼休みにご飯を食べながらそれぞれがつく係を決めて行く。 私と美輝は装飾係になった。装飾係は全部で十六人。 皆思うこと。 球技大会に装飾が必要なのか。 装飾係チーフが答える。 校内を球技大会に関するもので飾り付ける。派手でいいだろうと。 …
前髪が戻った。 入学して二週間。戻るまでに時間がかかったものだ。 今日は快晴。駅まで行く足が軽い。 朝練。爽快にランニング。 バレーのための練習は全て楽しい。苦しさより楽しさが勝る。 綺麗なトラックのライン。 汗を拭い真っ青な空を見つめる。 にほ…
結局入部した一年生は四人。 そのうちの二人は同じ中学出身。 千夏と春香。 バレー経験者は千夏と私。 先輩と合わせて部員は十二人。少ない。 それでもこのメンバーでやっていく。 勝てるチームになりたい。 もっと上手くなろう。中学最後の試合のようなミス…
次の委員会は一週間後。 「部活も委員会も城谷先生が顧問だよ。プレッシャー感じるな。」 部活へ向かう途中、美輝はこう言って舌を出す。 「そうだね。でもバレー部は柏先生だよ。それはそれで色々気遣うよ。」 美輝の目は丸く大きい。 その目は月の満ち欠け…
委員会が始まる。 委員長、副委員長の紹介。 年間スケジュール。 それから顧問の紹介。 顧問は三人。 竹本先生。 中原先生。 それから 城谷先生。 思わず手を見る。 深く色づく。いや、深く刺さる。 赤いインク。 にほんブログ村
もうかなり委員は集まっている。 委員会まであと五分。 美輝とは一ヶ月後の学年旅行の話になった。 行き先は栃木。学校の宿泊施設に二泊三日することになっている。 「グループって決められちゃうのかな。自分たちで決めたいよね。」 美輝は目尻を下げそう言…
委員決めは意外にもすんなりいき、美輝と私は球技大会委員になれた。 小雨になった雨が少し強くなっている。 終礼が終わると早速委員会に行く準備。委員会にはジャージで出席してもいいらしい。 まだ寒いからと美輝は長袖のジャージ。私は半袖。 バスケのズ…
委員はそれぞれ二人ずつ選ぶ。 二人で同じ委員会に入ろう。そう決めた。 球技大会。毎年十月に開催される大会。その準備を中心的に行う委員会がある。 決まった。 ボール好き同士、委員会でもボールを追う。 第一回目の委員会は今日。部活の時間が短くなるが…
あいにくの雨だ。 グラウンドでのランニングは散った。 かわりに体育館でトスとパス練。 あまり汗もかけない。 体育館は大体育館と小体育館があり、美輝は大体育館で朝練をしている。 四月だというのに雨が多い。 しとしと雨が降り、たまっていく。 朝練を終…
泡立った真っ白な石鹸。 隙間から見える赤い色。 思い出してしまった。今日のこと。英語のこと。 深く残る赤いインク。泡を流してもそこに残る。 明日も英語がある。もう予習をしなくてはならない。 一応辞書を開く。知らない単語を調べる。初回の授業だから…
やっと。やっとだ。 明日から部活に入部できる。 朝一番で学校に行って、入部届けをもらおう。 朝練に参加する。 メニューは聞いている。明日の朝はランニング。青空の下。 雲がひとつくらいあってもいいかも。 青空の真ん中に雲ひとつ。 「手を洗いなさいよ…
緑の黒板に白いチョークが走る。 城谷柚 「はじめまして。みなさんの英語を担当する、しろやゆうです。主に英語の読解を担当します。」 しろやゆう。 しろやゆうだった。男だった。 「さっきも誰か言ってたけど、名前かな。女の人に間違えられることも多い。…
皆すぐ前を向き席についた。 クスッと笑うのは美輝だけ。 心配そうな顔になる。 「大丈夫?ティッシュあるよ。」 「大丈夫。ありがとう。」 そう言うだけで精一杯。 恥の上塗り。 もうすずめはいなくなっていた。 にほんブログ村 にほんブログ村
赤いペンのインクが飛び出る。 ドアが空いた。 皆立っている。深い礼。 床を拭く私。 皆もう背筋が伸びている。 肩身が狭い。おそるおそる立つ。 「えっ。男!」 最悪。 視線が刺さる。 手から赤いインクが垂れた。 にほんブログ村 にほんブログ村
憂鬱。 ついに英語だ。 城谷柚先生。 左を向きグラウンドを見つめる。 灰色の雲。 すずめがグラウンドの砂をつつく。 羨ましい。好きなところへいつでも飛び立てる。その翼がほしい。 「またグラウンド見てる。」 美輝の頰はさらに赤くなっている。 ふと我に…
クラスに入ると美輝はもう席にいた。 「おはよう。早いね。」 目を細めこちらに顔を向ける。頬がほんのり赤い。 「おはよう。明日からバスケ部は朝練なの。慣れておかないとね。」 考えていることは同じだ。 部活の話になる。同級生の話。練習やうまい先輩の…
雲が多い。 グラウンドの横を通ると朝練が行われている。 はねる泥。真っ白な靴下に色を与える。 本入部は明日から。明日になればバレー部の朝練にも参加できる。 本当は今にでも体育館に向かいたい。 気持ちを抑え屋上に向かう。 風はないのに少し肌寒い。…
雨。白い。雨粒が繋がり外が白く見える。 鏡の前に立つ。 まだだ。 まだ伸びていない。短いままだ。たったの五日しか経っていない。 前髪が元に戻る気配はない。 前髪をいじりながら自分の部屋に戻る。 月曜の時間割を確認する。 英語。英語だ。 時間割の紙…
高校初めての授業は国語。 柏先生が全クラス担当する。 先生が来る前に生徒は静かに机の前に立っていなければならない。 そう説明された。 靴の音。床がきしむ。 静寂。 深い礼。 背筋が伸びる。 初回はどの授業もだいたい同じもの。 一年間の流れ、目標、テ…
授業の始まり。本格的な高校生活のスタート。 一番不安をおぼえるもの。 好きな科目は数学。答えが決まっているから。 鮮やかに数式を解くのは虹を描くのと似ている。 一線の狂いもない。同じ幅で色をつける。 答えがいくつもあり、一つに決まらないものは不…
個人ストレッチから始まる。 ストレッチは苦労する。体がかたい。 手に汗握る。 「あの、宮沢さんだよね?」 担任の柏先生。バレー部の顧問であった。 手の汗が引き、勢いよく立つ。「はい。よろしくお願いします。」 「バレー部興味あったんだ。うちのクラ…
明るい。部活は十六時からだ。 冬はとっくに終わっていた。 ジャージに着替え、靴をギュッとしばる。 体育館へ向かう。カバンが軽い。 全部で六人。見学する一年生は少ない。 レギュラーは取れるだろうか。手に力が入る。 先輩の自己紹介。 理不尽な 厳しさ…
「校内見学って小学生みたいだね。宮沢さんは説明会の時見学しにきた?」 美輝は目を細めて笑う。 私はもともと高校の説明会には来ていなかった。地元の高校に進学しようとしていたためだ。しかし去年その高校で不祥事が起きた。そのせいで志望校をギリギリ…
教室に入り席に着く。 もういくつかグループができていた。みんなかたまっている。 私は机に突っ伏し、校庭を見つめる。とめていた前髪を何度も押さえた。 「ねぇ。」 朝練をしている。グラウンドでは声出しをしながらランニングをして… 「ねぇねぇ。」 前髪…
青い空。息を大きく吸いたくなる。景色が広がる。 前髪をとめてきた。 今日は校舎見学のあと部活見学がある。 もっとも私が楽しみでたまらないのは部活動だ。 小学生の頃からバレーボールをやってきた。 初めての壁打ち。うまくできなくて顔にぶつかってきた…
入学式も無事終わり、教室に戻るとオリエンテーションが行われる。 授業は八時半から十六時まで。学校に来たらすぐに上履きに履き替えること。 帰りに寄り道をしてはいけないこと。学生証を常に携帯すること。 中学生までは適当に聞いていた規則。友達と適当…
鐘がなる。胸がなる。リハーサルが始まる。 リハーサルといっても、名前の後声高く「はい」と立つのみ。 それでも胸はなる。 淡い赤の光が照らされる。 校歌斉唱。まだ分からない。先生に合わせて歌うだけ。 ピアノの音が踊る。高い。静かな旋律。目を閉じ大…