56 犬⑧
「もう、先生遅い。なにやってるんですか。」
「悪い悪い。ちょうどトイレ行ってたんだよ。それにしてもそんなに強くドア叩くなよ。見回りの先生来ちゃうだろ。」
「先生が早く開けてくれないから悪いんですよ。」
美輝が不満をたれる。
先生の部屋にお菓子を持ち込み、私たちはソファに座る。
先生はベッドに座り一緒に話し始めた。
りんどう湖ファミリー牧場で芝犬のまるちゃんと散歩したことを話すと、先生は頰をゆるめた。
「まるちゃんと写真撮ったか?」
「撮ってないです。」
「えー、撮ってないのかよ。見たかったな。可愛かっただろうな。俺も散歩したかった。」
見たことのなかった先生の表情。
薄暗い部屋に色の黒い先生の顔。
なぜかはっきり見える。
美輝は私のことをびびり呼ばわりし、見回りに見つかることを恐れていたことを言う。
「ちょっと、美輝ちゃん。やめてよ、私びびりじゃないし。」
「宮沢さんは真面目だもんな。本田とは違うわ。」
城谷先生は私にそう言った。
なんだか私は城谷先生から遠い気がした。