次の委員会は一週間後。 「部活も委員会も城谷先生が顧問だよ。プレッシャー感じるな。」 部活へ向かう途中、美輝はこう言って舌を出す。 「そうだね。でもバレー部は柏先生だよ。それはそれで色々気遣うよ。」 美輝の目は丸く大きい。 その目は月の満ち欠け…
委員会が始まる。 委員長、副委員長の紹介。 年間スケジュール。 それから顧問の紹介。 顧問は三人。 竹本先生。 中原先生。 それから 城谷先生。 思わず手を見る。 深く色づく。いや、深く刺さる。 赤いインク。 にほんブログ村
もうかなり委員は集まっている。 委員会まであと五分。 美輝とは一ヶ月後の学年旅行の話になった。 行き先は栃木。学校の宿泊施設に二泊三日することになっている。 「グループって決められちゃうのかな。自分たちで決めたいよね。」 美輝は目尻を下げそう言…
委員決めは意外にもすんなりいき、美輝と私は球技大会委員になれた。 小雨になった雨が少し強くなっている。 終礼が終わると早速委員会に行く準備。委員会にはジャージで出席してもいいらしい。 まだ寒いからと美輝は長袖のジャージ。私は半袖。 バスケのズ…
委員はそれぞれ二人ずつ選ぶ。 二人で同じ委員会に入ろう。そう決めた。 球技大会。毎年十月に開催される大会。その準備を中心的に行う委員会がある。 決まった。 ボール好き同士、委員会でもボールを追う。 第一回目の委員会は今日。部活の時間が短くなるが…
あいにくの雨だ。 グラウンドでのランニングは散った。 かわりに体育館でトスとパス練。 あまり汗もかけない。 体育館は大体育館と小体育館があり、美輝は大体育館で朝練をしている。 四月だというのに雨が多い。 しとしと雨が降り、たまっていく。 朝練を終…
泡立った真っ白な石鹸。 隙間から見える赤い色。 思い出してしまった。今日のこと。英語のこと。 深く残る赤いインク。泡を流してもそこに残る。 明日も英語がある。もう予習をしなくてはならない。 一応辞書を開く。知らない単語を調べる。初回の授業だから…
やっと。やっとだ。 明日から部活に入部できる。 朝一番で学校に行って、入部届けをもらおう。 朝練に参加する。 メニューは聞いている。明日の朝はランニング。青空の下。 雲がひとつくらいあってもいいかも。 青空の真ん中に雲ひとつ。 「手を洗いなさいよ…
緑の黒板に白いチョークが走る。 城谷柚 「はじめまして。みなさんの英語を担当する、しろやゆうです。主に英語の読解を担当します。」 しろやゆう。 しろやゆうだった。男だった。 「さっきも誰か言ってたけど、名前かな。女の人に間違えられることも多い。…
皆すぐ前を向き席についた。 クスッと笑うのは美輝だけ。 心配そうな顔になる。 「大丈夫?ティッシュあるよ。」 「大丈夫。ありがとう。」 そう言うだけで精一杯。 恥の上塗り。 もうすずめはいなくなっていた。 にほんブログ村 にほんブログ村
赤いペンのインクが飛び出る。 ドアが空いた。 皆立っている。深い礼。 床を拭く私。 皆もう背筋が伸びている。 肩身が狭い。おそるおそる立つ。 「えっ。男!」 最悪。 視線が刺さる。 手から赤いインクが垂れた。 にほんブログ村 にほんブログ村
憂鬱。 ついに英語だ。 城谷柚先生。 左を向きグラウンドを見つめる。 灰色の雲。 すずめがグラウンドの砂をつつく。 羨ましい。好きなところへいつでも飛び立てる。その翼がほしい。 「またグラウンド見てる。」 美輝の頰はさらに赤くなっている。 ふと我に…
クラスに入ると美輝はもう席にいた。 「おはよう。早いね。」 目を細めこちらに顔を向ける。頬がほんのり赤い。 「おはよう。明日からバスケ部は朝練なの。慣れておかないとね。」 考えていることは同じだ。 部活の話になる。同級生の話。練習やうまい先輩の…
雲が多い。 グラウンドの横を通ると朝練が行われている。 はねる泥。真っ白な靴下に色を与える。 本入部は明日から。明日になればバレー部の朝練にも参加できる。 本当は今にでも体育館に向かいたい。 気持ちを抑え屋上に向かう。 風はないのに少し肌寒い。…
雨。白い。雨粒が繋がり外が白く見える。 鏡の前に立つ。 まだだ。 まだ伸びていない。短いままだ。たったの五日しか経っていない。 前髪が元に戻る気配はない。 前髪をいじりながら自分の部屋に戻る。 月曜の時間割を確認する。 英語。英語だ。 時間割の紙…
高校初めての授業は国語。 柏先生が全クラス担当する。 先生が来る前に生徒は静かに机の前に立っていなければならない。 そう説明された。 靴の音。床がきしむ。 静寂。 深い礼。 背筋が伸びる。 初回はどの授業もだいたい同じもの。 一年間の流れ、目標、テ…
授業の始まり。本格的な高校生活のスタート。 一番不安をおぼえるもの。 好きな科目は数学。答えが決まっているから。 鮮やかに数式を解くのは虹を描くのと似ている。 一線の狂いもない。同じ幅で色をつける。 答えがいくつもあり、一つに決まらないものは不…
個人ストレッチから始まる。 ストレッチは苦労する。体がかたい。 手に汗握る。 「あの、宮沢さんだよね?」 担任の柏先生。バレー部の顧問であった。 手の汗が引き、勢いよく立つ。「はい。よろしくお願いします。」 「バレー部興味あったんだ。うちのクラ…
明るい。部活は十六時からだ。 冬はとっくに終わっていた。 ジャージに着替え、靴をギュッとしばる。 体育館へ向かう。カバンが軽い。 全部で六人。見学する一年生は少ない。 レギュラーは取れるだろうか。手に力が入る。 先輩の自己紹介。 理不尽な 厳しさ…
「校内見学って小学生みたいだね。宮沢さんは説明会の時見学しにきた?」 美輝は目を細めて笑う。 私はもともと高校の説明会には来ていなかった。地元の高校に進学しようとしていたためだ。しかし去年その高校で不祥事が起きた。そのせいで志望校をギリギリ…
教室に入り席に着く。 もういくつかグループができていた。みんなかたまっている。 私は机に突っ伏し、校庭を見つめる。とめていた前髪を何度も押さえた。 「ねぇ。」 朝練をしている。グラウンドでは声出しをしながらランニングをして… 「ねぇねぇ。」 前髪…
青い空。息を大きく吸いたくなる。景色が広がる。 前髪をとめてきた。 今日は校舎見学のあと部活見学がある。 もっとも私が楽しみでたまらないのは部活動だ。 小学生の頃からバレーボールをやってきた。 初めての壁打ち。うまくできなくて顔にぶつかってきた…
入学式も無事終わり、教室に戻るとオリエンテーションが行われる。 授業は八時半から十六時まで。学校に来たらすぐに上履きに履き替えること。 帰りに寄り道をしてはいけないこと。学生証を常に携帯すること。 中学生までは適当に聞いていた規則。友達と適当…
鐘がなる。胸がなる。リハーサルが始まる。 リハーサルといっても、名前の後声高く「はい」と立つのみ。 それでも胸はなる。 淡い赤の光が照らされる。 校歌斉唱。まだ分からない。先生に合わせて歌うだけ。 ピアノの音が踊る。高い。静かな旋律。目を閉じ大…
鐘がなる。本当の鐘だ。電子音ではない。大きな音。体に響く。 始まりの合図。 同時に先生が入ってくる。 若い女の先生。背は高くない。和風の顔立ち。 「みなさんおはようございます。」 「おはようございます。」 まだ揃わない。バラついた声。 「入学おめ…
黒板に座席表。半分くらい席は埋まっている。 カバンの整理をする者。入学式の式次第を見る者。頬杖をつきぼんやりする者。友達と話をする者。 私の席を見つけた。窓際。前から3番目。 いい位置だ。外が見える。大きなグラウンド。 ここで始まる新しい私。
幼稚園から中学まで今まで一度も地元を出たことがなかった。遊びに行く時の必需品は自転車。自然と行動範囲は狭まる。 一人で電車に乗ることだけでも体がこわばった。 階段を駆け下りる。 高校一年生の教室がある一階に行く。 すると人だかりができていた。 …
新しい私を迎える黒い荘厳な校門。百年の歴史を迎える女子高。塀が大きく校舎を囲む。塀がある割に大きい窓。 ちょうど百年の節目に、私がいる。 前髪が揺れるのを忘れ足早になる。 今日は入学式。私が真っ先に向かいたかった場所。いつも必ず最初に行くとこ…
一年。なんて短いのだろう。 ‘新しい道’がたった一年で‘いつもの道’にかわる。 時は人を成長させ、時は人を止める。 時よ、はやく経て。もっとはやく経て。 髪は伸びるのにどれくらい時間がかかるだろう。はやく明日になれ。明後日になれ。 はやく大人になれ…
前髪を切りすぎた。 大きく息をつく。 桜。これほどの世界があるだろうか。去年はそう思えた。いつもと同じ道。いつもと同じ顔。いつもと同じ声。 顔を上げずとも桜を感じた。 今年は違う。前髪を切りすぎたのだ。 新しい道。新しい顔。新しいざわめき。 桜…