Reminiscence -追憶-

愛してはいけない人 愛されてはいけない人

28 顧問①

次の委員会は一週間後。 「部活も委員会も城谷先生が顧問だよ。プレッシャー感じるな。」 部活へ向かう途中、美輝はこう言って舌を出す。 「そうだね。でもバレー部は柏先生だよ。それはそれで色々気遣うよ。」 美輝の目は丸く大きい。 その目は月の満ち欠け…

27 赤いインク⑦

委員会が始まる。 委員長、副委員長の紹介。 年間スケジュール。 それから顧問の紹介。 顧問は三人。 竹本先生。 中原先生。 それから 城谷先生。 思わず手を見る。 深く色づく。いや、深く刺さる。 赤いインク。 にほんブログ村

26 赤いインク⑥

もうかなり委員は集まっている。 委員会まであと五分。 美輝とは一ヶ月後の学年旅行の話になった。 行き先は栃木。学校の宿泊施設に二泊三日することになっている。 「グループって決められちゃうのかな。自分たちで決めたいよね。」 美輝は目尻を下げそう言…

25 赤いインク⑤

委員決めは意外にもすんなりいき、美輝と私は球技大会委員になれた。 小雨になった雨が少し強くなっている。 終礼が終わると早速委員会に行く準備。委員会にはジャージで出席してもいいらしい。 まだ寒いからと美輝は長袖のジャージ。私は半袖。 バスケのズ…

24 赤いインク④

委員はそれぞれ二人ずつ選ぶ。 二人で同じ委員会に入ろう。そう決めた。 球技大会。毎年十月に開催される大会。その準備を中心的に行う委員会がある。 決まった。 ボール好き同士、委員会でもボールを追う。 第一回目の委員会は今日。部活の時間が短くなるが…

23 赤いインク③

あいにくの雨だ。 グラウンドでのランニングは散った。 かわりに体育館でトスとパス練。 あまり汗もかけない。 体育館は大体育館と小体育館があり、美輝は大体育館で朝練をしている。 四月だというのに雨が多い。 しとしと雨が降り、たまっていく。 朝練を終…

22 赤いインク②

泡立った真っ白な石鹸。 隙間から見える赤い色。 思い出してしまった。今日のこと。英語のこと。 深く残る赤いインク。泡を流してもそこに残る。 明日も英語がある。もう予習をしなくてはならない。 一応辞書を開く。知らない単語を調べる。初回の授業だから…

21 赤いインク①

やっと。やっとだ。 明日から部活に入部できる。 朝一番で学校に行って、入部届けをもらおう。 朝練に参加する。 メニューは聞いている。明日の朝はランニング。青空の下。 雲がひとつくらいあってもいいかも。 青空の真ん中に雲ひとつ。 「手を洗いなさいよ…

20 英語⑨

緑の黒板に白いチョークが走る。 城谷柚 「はじめまして。みなさんの英語を担当する、しろやゆうです。主に英語の読解を担当します。」 しろやゆう。 しろやゆうだった。男だった。 「さっきも誰か言ってたけど、名前かな。女の人に間違えられることも多い。…

19 英語⑧

皆すぐ前を向き席についた。 クスッと笑うのは美輝だけ。 心配そうな顔になる。 「大丈夫?ティッシュあるよ。」 「大丈夫。ありがとう。」 そう言うだけで精一杯。 恥の上塗り。 もうすずめはいなくなっていた。 にほんブログ村 にほんブログ村

18 英語⑦

赤いペンのインクが飛び出る。 ドアが空いた。 皆立っている。深い礼。 床を拭く私。 皆もう背筋が伸びている。 肩身が狭い。おそるおそる立つ。 「えっ。男!」 最悪。 視線が刺さる。 手から赤いインクが垂れた。 にほんブログ村 にほんブログ村

17 英語⑥

憂鬱。 ついに英語だ。 城谷柚先生。 左を向きグラウンドを見つめる。 灰色の雲。 すずめがグラウンドの砂をつつく。 羨ましい。好きなところへいつでも飛び立てる。その翼がほしい。 「またグラウンド見てる。」 美輝の頰はさらに赤くなっている。 ふと我に…

16 英語⑤

クラスに入ると美輝はもう席にいた。 「おはよう。早いね。」 目を細めこちらに顔を向ける。頬がほんのり赤い。 「おはよう。明日からバスケ部は朝練なの。慣れておかないとね。」 考えていることは同じだ。 部活の話になる。同級生の話。練習やうまい先輩の…

15 英語④

雲が多い。 グラウンドの横を通ると朝練が行われている。 はねる泥。真っ白な靴下に色を与える。 本入部は明日から。明日になればバレー部の朝練にも参加できる。 本当は今にでも体育館に向かいたい。 気持ちを抑え屋上に向かう。 風はないのに少し肌寒い。…

14 英語③

雨。白い。雨粒が繋がり外が白く見える。 鏡の前に立つ。 まだだ。 まだ伸びていない。短いままだ。たったの五日しか経っていない。 前髪が元に戻る気配はない。 前髪をいじりながら自分の部屋に戻る。 月曜の時間割を確認する。 英語。英語だ。 時間割の紙…

13 英語②

高校初めての授業は国語。 柏先生が全クラス担当する。 先生が来る前に生徒は静かに机の前に立っていなければならない。 そう説明された。 靴の音。床がきしむ。 静寂。 深い礼。 背筋が伸びる。 初回はどの授業もだいたい同じもの。 一年間の流れ、目標、テ…

12 英語①

授業の始まり。本格的な高校生活のスタート。 一番不安をおぼえるもの。 好きな科目は数学。答えが決まっているから。 鮮やかに数式を解くのは虹を描くのと似ている。 一線の狂いもない。同じ幅で色をつける。 答えがいくつもあり、一つに決まらないものは不…

11 部活⑤

個人ストレッチから始まる。 ストレッチは苦労する。体がかたい。 手に汗握る。 「あの、宮沢さんだよね?」 担任の柏先生。バレー部の顧問であった。 手の汗が引き、勢いよく立つ。「はい。よろしくお願いします。」 「バレー部興味あったんだ。うちのクラ…

10 部活④

明るい。部活は十六時からだ。 冬はとっくに終わっていた。 ジャージに着替え、靴をギュッとしばる。 体育館へ向かう。カバンが軽い。 全部で六人。見学する一年生は少ない。 レギュラーは取れるだろうか。手に力が入る。 先輩の自己紹介。 理不尽な 厳しさ…

9 部活③

「校内見学って小学生みたいだね。宮沢さんは説明会の時見学しにきた?」 美輝は目を細めて笑う。 私はもともと高校の説明会には来ていなかった。地元の高校に進学しようとしていたためだ。しかし去年その高校で不祥事が起きた。そのせいで志望校をギリギリ…

8 部活②

教室に入り席に着く。 もういくつかグループができていた。みんなかたまっている。 私は机に突っ伏し、校庭を見つめる。とめていた前髪を何度も押さえた。 「ねぇ。」 朝練をしている。グラウンドでは声出しをしながらランニングをして… 「ねぇねぇ。」 前髪…

7 部活①

青い空。息を大きく吸いたくなる。景色が広がる。 前髪をとめてきた。 今日は校舎見学のあと部活見学がある。 もっとも私が楽しみでたまらないのは部活動だ。 小学生の頃からバレーボールをやってきた。 初めての壁打ち。うまくできなくて顔にぶつかってきた…

6 鐘③

入学式も無事終わり、教室に戻るとオリエンテーションが行われる。 授業は八時半から十六時まで。学校に来たらすぐに上履きに履き替えること。 帰りに寄り道をしてはいけないこと。学生証を常に携帯すること。 中学生までは適当に聞いていた規則。友達と適当…

5 鐘②

鐘がなる。胸がなる。リハーサルが始まる。 リハーサルといっても、名前の後声高く「はい」と立つのみ。 それでも胸はなる。 淡い赤の光が照らされる。 校歌斉唱。まだ分からない。先生に合わせて歌うだけ。 ピアノの音が踊る。高い。静かな旋律。目を閉じ大…

4 鐘①

鐘がなる。本当の鐘だ。電子音ではない。大きな音。体に響く。 始まりの合図。 同時に先生が入ってくる。 若い女の先生。背は高くない。和風の顔立ち。 「みなさんおはようございます。」 「おはようございます。」 まだ揃わない。バラついた声。 「入学おめ…

3 新しい私③

黒板に座席表。半分くらい席は埋まっている。 カバンの整理をする者。入学式の式次第を見る者。頬杖をつきぼんやりする者。友達と話をする者。 私の席を見つけた。窓際。前から3番目。 いい位置だ。外が見える。大きなグラウンド。 ここで始まる新しい私。

2 新しい私②

幼稚園から中学まで今まで一度も地元を出たことがなかった。遊びに行く時の必需品は自転車。自然と行動範囲は狭まる。 一人で電車に乗ることだけでも体がこわばった。 階段を駆け下りる。 高校一年生の教室がある一階に行く。 すると人だかりができていた。 …

1 新しい私①

新しい私を迎える黒い荘厳な校門。百年の歴史を迎える女子高。塀が大きく校舎を囲む。塀がある割に大きい窓。 ちょうど百年の節目に、私がいる。 前髪が揺れるのを忘れ足早になる。 今日は入学式。私が真っ先に向かいたかった場所。いつも必ず最初に行くとこ…

Reminiscence-追憶- プロローグ 後半

一年。なんて短いのだろう。 ‘新しい道’がたった一年で‘いつもの道’にかわる。 時は人を成長させ、時は人を止める。 時よ、はやく経て。もっとはやく経て。 髪は伸びるのにどれくらい時間がかかるだろう。はやく明日になれ。明後日になれ。 はやく大人になれ…

Reminiscence-追憶- プロローグ 前半

前髪を切りすぎた。 大きく息をつく。 桜。これほどの世界があるだろうか。去年はそう思えた。いつもと同じ道。いつもと同じ顔。いつもと同じ声。 顔を上げずとも桜を感じた。 今年は違う。前髪を切りすぎたのだ。 新しい道。新しい顔。新しいざわめき。 桜…